患者の情報収集の必要性とコツ

患者の職歴や趣味など、一見医療とは関係のないような情報でも、患者の健康状態を左右する重要な要素となっているケースが少なくないように、単に症状の経過や検査データの値だけでは、患者の健康状態を維持・改善するのは困難です。より良質な医療を提供するには、日常生活や家庭環境など、より多角的な視点で情報収集を行うことが必要不可欠となります。ここでは、患者の情報収集の必要性とコツについて説明します。

患者の情報収集の必要性

患者の健康状態を多角的に把握し、日常生活に悪影響を及ぼす可能性の高い問題点を列挙・整理することが主な目的です。例えば、同じ怪我を負った患者でも、年齢や職業、合併症の有無、家庭環境、経済状態などによっては、治療方針を柔軟に変える必要があります。また、医療事故を予防する上でも、患者の情報収集が欠かせません。アレルギーの有無や薬歴を十分聴取せず治療を進めれば、最悪、患者の命に関わる問題に発展する恐れがあります。

以上のように、医療従事者が患者に求める情報には、プライバシーに関わるデリケートな情報が多々含まれますが、これらの情報を共有する過程で、医療従事者と患者の信頼関係がより強固なものとなっていきます。

情報収集すべき項目とは

性別、年齢、現病歴、既往歴、家族構成、キーパーソン(治療方針の決定に関与する家族など)、家庭環境、要介護度、入院前の日常生活と歩行の状態、利用サービス、家族の健康状況と協力体制については最低限情報収集をしておく必要があります。特に、入院治療を行う医療機関では、退院後の日常生活をイメージできるよう、必要な情報を収集しておくことが大切です。

情報収集のコツ

患者情報の収集方法には、診療録などの資料収集、面談、観察の3つが挙げられます。このうち資料収集では、医師が記載する診療録だけではなく、看護師、薬剤師、栄養士が作成する記録もしっかりチェックしていきます。面談では、患者またはその家族に対し、なぜその情報を必要としているのか説明を加えながら、質問を行います。観察では、日常生活の様子や他患者とのコミュニケーション、運動量、食事量、睡眠時間などを記録していきます。情報収集の段階では、情報を収集する者の主観や判断を含めず、客観的な情報のみ集めるようにします。

情報収集した内容の利用範囲

集めた情報は、治療目的以外にも、診療報酬の算定事務や経営状態の把握、公益目的、医療の質向上のために活用されます。いずれにせよ、患者情報を活用しようとする場合は、患者にその目的を説明し同意を得なければなりません。また、患者データを自宅に持ち帰ったり、部外者が通行する場所に放置するなどの行為は、守秘義務違反にあたります。もちろん、それらの情報が不要になった際は、シュレッダーなどを使って正しく廃棄する必要があります。

情報収集は、患者の健康維持・回復のためだけではなく、患者との信頼関係を強固なものとし、健全な病院経営を図る上で欠かせないものとなっています。取り扱いを誤ると社会的・法的責任を追う可能性もあるため、守秘義務を遵守し、正しい方法で情報収集を行うようにしましょう。